あそこは 風の通り道だ
その昔 避暑地と言われたこの街も 温暖化が進み
摂氏30度を超えた真昼の 冷房のないこの古い平屋に逃げ場などない
書斎と冷蔵庫を往復する その途中の
風呂場の窓から流れるその風に 涼を思えど
冷蔵庫で冷やした 麦茶がどんどんと減っていく現実に
向き合おうとしない 自分がいた
美味しい麦茶を入れるには 湯を沸かさなければならない
その灼熱を思うと 涙がこぼれそうになったので
ボクはその瞳を 閉じることにした
いっその事 風の通る あの風呂場の脱衣所で 昼寝をしてやろうか
しかし こんなところで寝ていたら 通りすがりの人が 大っぴらげた窓から
横たわったボクを見つけ
「小太りの中年男性が 風呂場で倒れてます」なんて
救急車などを呼ばれてしまいそうな気がして やめた
シュークリームを買った時にもらった 保冷剤を
後頭部と枕に挟んで ベッドで昼寝することにする
30歳も過ぎれば 大人の判断もできるようになる
と 少し誇らしげに 横になると
寝室の少し開けた窓から 誰かが 我が家に近づいてくる気配と
それから ポストにワシャワシャと 何かを突っ込まれている音がした
「まぁ郵便だろう」 と思えど
また誰かがくるのでは と さっき何が大きな音を立てて 投函されたのだろうと
気になって気になって 眠れなくなってしまい
結局 そのまま起き 夕方まで 仕事をした
日も沈めば また涼しい風が 入り込んでくる
日暮れとともに 洗濯物を干していたことを思い出す
乾いた洗濯物をベッドに投げると すっかり暖まった保冷剤が目に入る
保冷剤を冷凍庫に戻すと 晩のむ 麦茶がないことを思い出す
そして また風呂場からの涼しい風で
そこが 風の通り道だったことを 思い出す
どちらかというと 夏は苦手なほうだ