2015年2月8日日曜日

レモンジュースはすっぱいから いいんじゃないか


お月さんが明るすぎて 見えなくなってしまった
小さいけど キレイな星 君はそんな人だった


ボクは昼でも 夜でも いつでも 
誰からも見えない 見られていない 小太りの透明人間として
高校生活3年間を 過ごしていた つもりだったから

20歳をすぎてから あの子は
「あの頃 ちょっとだけ君のことが好きだったんだよ」と 
ボクに メールをくれた 

ボクは ひどく驚いた


あの頃のボクが 小太りの透明人間だったからでもなく
あの頃のボクが ただの恋愛トンマだったわけでもなく

あの頃のボクが ただなんの取り柄もなく 地味で
顔の細工も頭も悪く 救いようのない 小太りのボクに

少しでも興味を持ってしまった あの子の その恋が


「アレはないっしょ」と 
友人に一刀両断されてしまったことにより

「ちょっとだけ」のうちに 
消えていってしまった恋 だということを

ボクには すぐに想像がついた


クラスのみならず 他のクラスの人からも人気のあった子と
いつも一緒にいた あの子



20歳をすぎてから あの子と再会したのは
たまたま 入った銀行の窓口

ボクが 差し出した振り込み用紙を受け取り
「わたしのこと覚えてる?」

とボクに話しかけてくれた 窓口のおねいさんが
あの子だった


ボクは その時自分に出来る限りの かっこいい仕草と声で
「お おう」

と 答えた  言うまでもないが ボクは小太りだった


それから  メールのやりとりをした

懐かしい話 思い出話 忘れかけていた話 をたくさんした

あのとき彼女は 
そんな風にそれを見ていて そんな風に思っていたんだ と
ボクは ハッとするような ことばかりだった

あの頃のボクは あの頃の彼女を 少し勘違いしていたようだ

そんなことを思っているうちに またメールがきた

「あの頃 ちょっとだけ君のことが好きだったんだよ」


ボクはなんて返したらいいのか 言葉が見つからなかった
その言葉が 嬉しかったはずなのに 
さっきまで あんなに楽しかったメールの はずなのに

上手に言葉がでなくなり 上手にメールができなくなった

「あのとき あの子と付き合っていたら」 という
どうしようもない想像が また心をしめつけた


それから パタリと 彼女と連絡をとらなくなった

それから 妙に心がすっきりして
ボクも だれかに好かれることがあるんだなと しみじみ思った


ボクらは 恋する惑星に 生まれたんだ


とある日の スーパー銭湯

次から次と お風呂を 移動するたびに 

視界に入ってくるおじさんがいた

それから おじさんは 

ボクが移動するたびに ボクのとなりのお風呂に移動するようになった


ボクは次第に 逃げるように お風呂を移るようになった


そして できるだけ遠くのお風呂に  逃げ切ったつもりで 入った

その 瞬間

おじさんが 両手で頬杖をついて ボクだけをみつめて

となりのお風呂に入った

その 瞬間


ポカポカに温まったはずの体に 寒気が走った


ボクは 逃げるように銭湯を出て

いつも帰らない道を通り できるだけ遠回りをして 家に帰った


あれほど 本物の透明人間になりたいと思ったことはなかった



ボクらは恋する惑星に 生まれたんだ



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